2010/10/04

阿寒滞在記 / theshorttrip


阿寒湖 lake Akan


現在、僕はPCの前で阿寒滞在中に収録した日川キク子さんのビデオ編集を終え、彼女のファミリーへのDVD郵送の手はずも整え、ややほっとしているところです。
日川キク子さんのPV制作、これは、殊更誰かに頼まれたものではなく、今回、録音・録画させていただいた筋を通す、というかささやかなお返しになれば……いや、僕の内で唐突に渦巻くものあり、その声に、衝動に突き動かされただけなのかも知れません。

二泊三日の阿寒アイヌコタン訪問。
地元に住んでいらっしゃる友人たちの暖かな心遣いの元、ゆったり揺られ、甘えさせてもらい、かなりスリリングな愉しい時間を過ごさせてもらいました。

今回の旅の目的は、日川キク子さんへ「ソロCDを作りませんか? そのお手伝いをさせていただけませんか?」という話をするのが主目的でありました。
有り難いことに、キク子さんは快く引き受けてくれました。
が、現実問題、このCDはいつ完成するのか、いや、それ以前に、CD制作のための具体的なプラン、見取り図が見えてこず、今、僕はなにも考えられずにいます。

あるシンガー、もしくはミュージシャンのソロCD作りのお手伝いを一人きりで行うということは、たぶん皆さんには想像できないと思われますが、凄まじいパワーと知力、直観力、配慮等々が要求されます。これは当然、自分のアルバムを作る以上のパワーと、厳しさ、やさしさ、刻々とした作業となります。ただ、他者のフィールドに赴くということは、信じられないほどの光景、非常に不可思議な旅を僕に約束してもくれます。他者の内で煌々と静かに燃え上がる“無限”に触れてしまう瞬間、ちょっとうまい表現が見つかりませんが・・・。でも、正直、「日川キク子」さんについて語らせていただくならば、彼女は七十三歳ですが、今だ一枚もその歌声を収録した音源がこの世に存在しない、纏まった作品集(CD)が無いという驚きが僕の中心にあります。また、他のミュージシャン、もしくは録音技師、音楽プロデューサー、さまざまな方々が彼女の歌声の神秘に触れ、早急に、彼女の数多のウポポ(唄)を録音し、世に問うべきではないのかという気持ちが強くあります。

ところで、僕がアイヌ民族音楽の研究者を好かない理由をすこし書かせていただきます。
彼らは、アイヌの唄を研究対象にし、もしくは「資料」としてこれを扱い、まるで自身の研究成果を披瀝する事を主目的とし、または、第一発見者であることに学問的優越感をおぼる小癪な私欲が見え隠れするからです。
ある個人が、ある巨きなものと出会い、もし感動を覚えたなら、理屈はさておき、これをいち早く世に放とうとするのが人間の本能というものです。故、学者とは、“今、生きて在る”ものを、整理し、噛み砕き、纏め上げ、悉く「伝統」という枠の中に収め、博物館送りにし、アイヌの唄に内在する恐ろしいくらいの可能性、「未来性」に賭けようとはしない。単に過去を懐かしむための作業に終始する方々……。
まあ、でも、研究者も大学も必要なんでしょうね。ただ、その仕事、主旨とか内容はさておき、言語による表現そのものが、うつくしいものであれば。「今」を、リアルに明るみにするものであれば。

日川キク子さんのソロCD、これは僕の不遜な夢に過ぎないのだろうか?
数多の娯楽音楽が量産され続ける節操無き現在のミュージックシーン、意味のない歌声が横行するこの聴覚世界にあって、彼女のソロアルバムを、ただ誰よりも待望しているだけなのかも知れません。

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