2025/01/20

ハルノ haluno (feat.Toko Emi)

 



2007年頃、家の近くに釧路出身のアイヌの歌い手・床絵美が越してきた。

オオカミ犬を飼っていたDJノブヤを介して知り合い、生まれてはじめてアイヌの歌「ウポポ」という存在を知った。
彼女がコーラスの一人として参加したOKI(オキ)さんのアルバム「NO-ONES LAND」( 2002年)を聴き、彼女の声やアイヌの伝統曲が持つ独特な明度に魅かれ、思わず、「ウチで、君の唄を録音しない?」と、念のため名刺代わりに僕のCD『時空の破片』を渡した。

後日、快い承諾を得て、ゆらゆらと、ご近所さんとのお付き合い感覚で、彼女との音楽を通じての交流が始まった。


自分以外の誰か他のヒトの歌や演奏を録音し、ディレクションしたのは床絵美が初めてのことだった。

「こんな感じで録れたけど、聴いてみて」と、彼女の歌声を録音する度、ラフミックス音源をCD-Rに焼き、ぶらっと徒歩で3分、彼女が住む家を訪ねた。

そんなやり取りがしばらく続いた後、アイヌの伝承歌だけを集めた彼女のソロアルバム1枚が生まれ、しばらくして彼女の妹さんとのユニット「カピウ&アパッポ」のアルバムを1枚、そして僕とのユニット、リウカカント名義での2枚のアルバムを制作し、自主販売ながら発表した。


他者の音楽、演奏を録音することとは、その彼らが持っている様々の色彩や波動に感応し、また彼らが開く存在論的フィールドの内へ参拝することだが、これはかなりスリリングな体験。

ある被写体に反応してシャッターを切るという撮影行為とどこか似てるけれど、たった1人での音楽制作では得難い、何か波のような有機的な輪郭を持った歓びへと繋がる。


その後、トンコリ奏者の千葉伸彦さんやシンガーソングライターの堀内幹、床絵美の祖母・遠山サキさんのソロCD制作のお手伝いなどを続け、それは僕にとって珠玉の時間となった。


でも今は、つとめて誰かの音楽制作の協力をしたいとは思わない。

他者の音楽を扱う、そのためのディレクションをするということは、途方もない緊張を強いられ、充分な時間と体力、優しさが求められるからだ。

ただ、またある出会いが僕の心に火を点けるかも知れないが……。

 


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