2010/10/17

アントナン・アルトーの受難劇 / Antonin Artaud




アントナン・アルトーの受難劇 (Aug/28/04)

----ネガテイブな亡霊ごっそり背につけアルトーさん
底で何してんの?

「・・・私は彼女を抱く。彼女に口づけをする。ある最後の圧力が、私を引き止め、凝結させる。私の腿の間で、教会が私を止め、嘆くのを感ずる。
(中略)・・・いや、いや、私はこの最後の壁を押し開く。かつて私のsexを監視していた、アッシジの聖フランチェスコは今や離れ去る。聖ビルイッタが私の歯を開く。聖アウグスチヌスが、私の帯を解く。シエナの聖カタリナが、神を寝入らせる。」*

エクリチュールのデルタ地帯
照れ隠しの自己劇化
苦痛に酔うケンタウロス
自虐への耽溺は
中世以来の信徒の流行

「・・・一切の文章表現は豚のやるような仕事だ。
曖昧なものから出発して、それが何であろうと、とにかく己の思考の中に生ずるものを明確にしようと試みるような連中は、まさしく豚野朗である。」*

五歳の時 彼は脳膜炎前躯症を患い 九死に一生を得たが 後 神経症の兆候を示すようになり 生涯 身体的苦痛と狂気の極限で生きた 詩人にして前衛演劇の実践者 アントナン・アルトー  晩年は 八年八ヶ月におよぶ入院生活(精神病院のハシゴ) そして千九百四十六年 最後の宿・ロデーズの病院から退院 その二年後 永眠五十二歳。

風の上にありか定めぬ塵の身はゆくへも知らずなりぬべらなり 
(古今和歌集)

狂気とは何か? 
ヒトを無闇に姦淫し 
憎悪に駆られ
ヒトを殺めた経験のない者が
せいぜい公園で無法の雄叫びを上げ
ちょいと小部屋の片隅でアヘン吸い
(ゴッホは、片耳を削いで愛する者へ贈った・・・)
高ぶった神経を弛緩させようと
ほんのりよい気持ちを貪っていただけの男が
時に熱に魘され文章書き
ウンチなんかしませんよ!
なんて顔したマドモアゼルが群がる都心部へ
ショーウインドウを真似た
数多の装飾的な恋愛劇に亀裂を
古代のカミナリを走らせようとした男が
ある日“精神分裂病”というモダンな病名を宣告され
半ば強制的 ほぼ暴力的 
柵で仕切られた白い巨塔に連行され
そこの大親分から狂人初心者マークをペコンと御でこに張られ
狂気とは何か?
そして院内では サドマゾ愛好家もびっくりするような
原始人も腰を抜かすであろう最先端の治療法
電気ショック療法とクスリ漬けの日々
ああ これが本物の<残酷劇>
舞台は客席不在の白を基調とした病室X
これではノーマルな人間も
アブノーマルな人間さえもが
正真正銘の狂人へと変容できる
・・・狂気とは何か?
それはどこにある?
どこにあったのか?

「かつては、魂は実在していなかったし、
精神もまたそうであった、
意識にいたっては、誰もそんなもんについて考えたこともなかった、
それにまた、破壊されるやいなや再び組み立てられる、まったくの戦闘状態にある要素だけでできた世界においては、思考はどこにあっただろうか?」*

『神の裁きと訣別するために』
こんなタイトル(書名)を考えつく者は
たぶん敬虔な裏クリスチャンか
骨の髄までバイブルのお伽噺に洗脳された隠れ信者
ザ・西洋人!以外には考えられまい
(日本のクリスチャンとは憧れちゃんレベル 踏み絵を踏むべきか踏まざるべきか 絵に描かれた偶像神を前にして思い悩むなんて 悪魔が見たら さぞかしぶっ魂消ることだろう)
アルトーさん
貴方の歯軋りは全くのヨーロッパ仕込み
そう考え 離れてみることもできた
文明がこしらえた架空の夜は
神経衰弱者から南国の放神を奪い
機敏な魂たちを磔にかける
『ヴァン・ゴッホ 社会が自殺させた者』
こういったタイトル(書名)を思いつく者は
本来 純朴なる魂の持ち主か
沈黙を愛する 生まれる時と場所を誤った羊飼い・・・

「・・・卑劣な猿どもや、濡れしょぼった犬どもから成る人類を前にすれば、ヴァン・ゴッホの絵は、魂も、精神も、思考もないような時代の、次々と結ばれまた離れる原初的な要素以外の何も無いような時代の絵と思われたことだろう。」*

神経の秤=アルトー
神経の秤に引っ掛かって来るモノやコトなど
実は高が知れている
そこに質量を感じてしまうのは
己がひどく西欧文明に毒され
キンジュウソウモク(自然)から切断されてしまったからだと
そう考えてみることもできた

「・・・人は、無限のために生きることもできるし、無限によってのみ満足することができる。この地上と諸天体には、無数の偉大な天才を満足させられるだけの無限がある。」*

ふりかえる
灼熱の眼は
ひるがえる
黒いマントの裾
水気を含んだ
初老のガラス細工
そよ風が
無限定を
引き寄せた
未明の刻
無数の星々が散りばめられた
深紅の底なし絨毯
硬直したカラダは
惑星メトロノーム
小刻みに震え
意味を剥ぎ取られた
黒い穴のあいた襟首から
二頭の幻獣が
熱に侵された彼の頭上をめがけ
その外部思考まで食いちぎる


*アントナン・アルトー『ヴァン・ゴッホ』粟津則雄訳(ちくま学芸文庫)

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