2009/03/31

愛しのユタ / whatever you want


ときおり、近所の方から、すれ違いざまに、好意的な微笑をそえられ「またワンちゃん飼わないの?」と尋ねられることがある。その度に、僕はだらしない、無骨な笑みを口元あたりに浮かべて(たぶん)、「いやあー」とオツムの辺に手をやり、「犬はもういいかな」などと応えている。でもなかには、「じゃあ、猫ちゃんなんてどう?」なんて、聞かないでよ、僕はもう動物(?)を家で飼うことはしないと思うよ。(果たして彼らは本当に動物なのだろうか?)

ユタ、ホワイトシェパードの雑種、つまり「ハイブリッド犬」ですがね、彼と共に7年間暮らし、先に逝かれ、もう十分なんだな。

この写真に映っているユタは、まだニューヨークにいた頃のもので、ブロンクス・リバーデイルの高層アパートのリビング、生後1ヶ月ぐらいのユタくんです。

もう何も言うことは無い。

「この世は幻、マーヤである」と、お釈迦様気取って直覚することは簡単だし、でも、常日頃からそう粋がってる(?)パンクな僕も、その喪失に、なぜか今涙がこぼれる。
いやだね、しみったれているのさ。けれど、なぜだろう? 
時にそこらへんにうろりとやって来るユタの面影や匂い、存在の微かなトーンのようなものを僕はすぐさま感知し「あ、そう、来たのね」ぐらいにしか応えちゃやらないのに、ね・・・・。


2009/03/27

下倉洋之のジュエリー / Ague's Handmade

「物にイノチが宿る」という言葉がありますが、このイノチというのは、その物を作り上げた制作者の「個人的」なイノチの謂いではなく、その制作者を媒体にし、流れ出た、あの惑星的な、根源的なイノチのことではないかと僕は思っております。
「制作する」というのは、甚だ個人的な営為ですが、彼のように、みずからの感動体験、神秘体験から決して眼を逸らそうとしない、みずからの足場が崩れ去るような恐怖を前にしても、決してひるむ事の無い魂は、その制作過程の途上において必ずや超えていかなければならない、あの境界を、眼の前に横たわるボーダーラインを、細々した、この文明が携えるように命じた数多の浅き小ざかしい知恵の類を、かなぐり捨てることによってしか渡れない、そのことを十二分に直覚するがゆえに、かぎりなく未知の遠方に視線をこらし、ぐいぐいと、誰よりも激しく動揺しながら、超えてゆくことによってしか「物にイノチは宿らない」のだと、ひとり気持ちを静に収め、あの惑星的、根源的にイノチに触れようと、そのツールに成ろうと、コウベを垂れ、挑み続けているものなのです。
これは、本来制作者の基本的な凛然とした態度、「倫理」というものですが、どうでもいいような「物や事」ばかりが捏造され、氾濫する現代社会にあって、彼のような制作態度を貫き通そうとする意識は(彼は33歳という「職人」と呼ぶにはまだまだ若々ですが)、誠に稀有に値することではないかと、僕は感じます。

未知に触れて欲しい、と切に想う友人です。



name : Tekkup/杢目金の羽根
material : 銀(sterling silver)& 銅

2009/03/20

恐るべきボーカリスト・日川キク子 / Ms.Kikuko Hikawa


photo by Takeshi Kainuma

 今、ここに、北海道釧路市阿寒湖温泉に住んでいらっしゃる「日川キク子」という女性シンガーについて書こうとしている僕の個人的な理由は、たったひとつしかありませんが、「日川キク子」と言われても、たぶん皆様は一体誰のことやら、グーグル検索かけてもヒットすることのないこの恐るべきシンガーについて、阿寒の方々をのぞいて、知る人はまずいないと思います。

朝崎郁恵ーーー。鹿児島県大島郡瀬戸内町花富生まれの歌手。奄美島唄伝承の第一人者。朝崎さんについては皆さんよくご存知かと思われます。中孝介さんのおっかさん的存在ですね。
もしまだその歌声を聴いたことのない方々はここをどうかクリックしてみてください。
これはYouTube動画ですが、この朝崎郁恵というシンガーが一体どのくらいの力量の持ち主であるのか、すぐさまご理解できるかと思います。
ただし、歌というもの、ボーカリストという存在について、月並みな幻想というか、年若きころに数多の情報によって洗脳された、自己愛に満ちた「歌手のイメージ」を終わらせていないリスナー方には「オバサンの歌声」としてしか響いて来ないかも知れません。

安東ウメ子ーーー。北海道帯広市フシココタン出身のアイヌの音楽家。 ムックリ(口琴)とウポポ(歌)の名手。
このアイヌの歌い手はすでに逝去されましたが、「西に朝崎郁恵、東に安東ウメ子あり」というぐらいの存在で、トンコリ奏者として著名なOKIさんのプロデユースにより2枚のソロアルバムを発表しております。これはどちらも名盤ですが、当時は音楽評論家のピーター・バラカンや坂本龍一などの耳をガツンと唸らせたのでした。
安東ウメ子さんの歌声はこちらから試聴することができます。
もしくはiTunesストアにて「安東ウメ子」で検索すれば、同様に試聴できます。

そして今、日川キク子ーーー。
彼女に強烈なスポットを浴びせようとする僕の試み・・・、彼女の唄声を直に聴くことのできるCD、音源というものがまだ公的には存在しておりませんので、どうも歯切れの悪い言い回しになります。
たとえば、日本のポップス界では、ちあきなおみ、美空ひばり、都はるみという大きな才能をもった歌姫がおりました。
海外では、ドアーズのジム・モリソン、ジェームス・ブラウン、マヘリア・ジャクソン、マリア・カラス、ボブ・マーリー、ジャニス・ジョプリン・・・、彼等はたいへん優れた歌い手であり、世界には「偉大なボーカリスト」たちが多数存在しておりました。
僕たちは彼らのその稀有な歌の有り様を、声の、響きの有り様を、彼らが残した録音物を通してのみ、触れる機会が許されておりますが、歌とは何か? 皆さんは考えたことがありますか? 歌とは、人間に許された、人間という形態をもった生命体の、その精神の軌跡、奇跡です。

日川キク子ーーー、彼女の歌声、その天賦の才、恐るべきその喉から発散される複雑な響き、人間の喉、声というものの秘密を開示しようとする、そしてこの秘密とは、森羅万象のあらゆるサウンドのエキス、エッセンスがすでに人間の声の内に、喉という小さな器官に内包されているという「認識」の告知ですが、そう言ったもろもろの神秘的で、実は「当たり前」の圧倒的事実を、彼女の歌声は、まるで僕の全存在を垂直に切断し、別次元に追いやろうとするかのような圧倒的な暴力、聖なる暴力によって、「今」を取り囲む数多の幻想を一挙に消し去り、すっと知らしめてくれたのでした。
「今」というこの時空が、ほんものの、「裸の今」として、過去であるとか、未来であるとか、そういったまやかしの時間軸を一斉に剥奪し、おおいなる、無限の自由性へと飛翔させてくれたのです。くどいようですが、その音源をお聞かせできない現状が心苦しいです。

まあでも、そのような事をキク子さんに伝えても、彼女はポカンとするだけで、「キク子さんはマリア・カラス級のボーカリストですね」と、昨年阿寒滞在時のおりにそうお伝えしたのですが、誰それ?って顔をしておりました。

2009/03/18

下倉洋之の仕事 / on the border


現在、カミさんの展覧会が開催中である裏高尾は旧甲州街道沿いにある珈琲自家焙煎のお店『ふじだな』、そのお隣には先ごろ移転した下倉洋之のブランド名Agueのアトリエ『Rakan』が在る。
我が家から、そう遠くない所にあるものだから、仕事の気分転換に「ちょいとコーヒーを」と車を走らせ5分、『ふじだな』にて旨いコーヒーを飲みながら、ついついそのお隣の『Rakan』にまでお邪魔をし、下倉洋之の仕事の妨害に、ふらっと立ち寄ってしまうのだが、思えば、彼と知り合ってまだ2年ぐらいしか経っていないのだな。
彼の作品、そのジュエリー、銀細工については、写真と動画によってすでに語っていますから、また愚生の独断と偏見に満ち満ちるであろう感想文を読むよりこちらを読んでいただく方が良いと思います。
さらに、これは彼が北海道新聞の取材を受けた際のビデオ、彼の肉声(?)が聞けますので、興味のある方はどうぞ。



photo by Takeshi Kainuma

2009/03/16

床絵美という存在 / the Field of Toko Emi


第一回国際口琴フェスイテバル in東京(part2)

2009年3月28日(土)pm14:00より
会場:東京音楽大学 A館1階A100教室

*床絵美と千葉伸彦が出演いたします。

詳細はこちら


(雑記)
いつもいつも思うのだが、アイヌ関係、民俗音楽関係のコンサートおよびイヴェントのチラシ、ブロウシュア等のビジュアルイメージがいつもダサいのはなぜでしょうか??毎回毎回、おなじみの調子、おんなじ風情で古臭くて・・・ひどく予定調和的、凡庸で、お決まりのイメージセット・・・。つまり、正直に申し上げて、「閉じている」と思います。などと、余計な雑感を書けば、千葉さんや床さんからお叱りを受けそうですが、たぶん彼らも実際はそんな風に感じているのだと思います。ですから、主催者は、もっと「慎重に」あらねばなりませ~ん。

2009/03/09

千葉伸彦 Nobuhiko Chiba / suma kaa peka tuhse irehte


CD 「TONKORI/Nobuhiko Chiba・ トンコリ/千葉伸彦」より


千葉 伸彦
東京音楽大学招聘講師
プロフィール
神奈川県出身。音楽家。
高校時代から湘南出身のミュージシャンとして活動、プロの音楽家として演奏や楽曲提供などを行う中、民族音楽に傾倒する。
北海道演奏旅行中にアイヌ音楽に出会い、89年以降各地の伝承者を訪ね、歌唱などを習得。
96年、アイヌ歌唱の音階に関する論文をはじめ、トンコリ演奏法を解明する論文等を発表。現在は研究活動の他、アイヌ音楽伝承者へのインストラクターやアイヌ民族公演のゲストとして招聘されるなどして演奏活動を行っている。
2008年、初のソロCD「TONKORI トンコリ」を発表する。

著作:「西平ウメとトンコリ」(財団法人アイヌ民族博物館) 2005年 
「小泉文夫録音、西平ウメ演奏・解説によるトンコリ演奏法」(財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構) 2007年


*トンコリ(tonkori)とは、アイヌ民族のうち樺太地方に伝えられた五弦のハープです。