昨日、グーグル検索で遊んでいたら清野賀子写真集『至るところで 心を集めよ 立っていよ』というページと出会った。
彼女の死後、ある編集者が編んだものだ。タイトルが素晴らしい。
―至るところで 心を集めよ 立っていよ―
誰の言葉と思いきや、ドイツの詩人パウル・ツェランの晩年の詩、言葉・・・。たぶん、編集者が決めたのだろう。
これは、故・清野賀子らしい。大きな言葉をいただいたものだ。だが、この言葉の元に集められた彼女の写真、仕事は、かなり凡庸なものだ。弛緩している。
「至るところで 心を集めよ 立っていよ」
この言葉は、実際、彼女のファースト写真集『The Sign of Life』(2002)のサブタイトルにこそ相応しい。
<本書について>という文を読んでみると、かなり無闇な言葉が並べられていた。
「・・・スナップショットともプライベートな生活の記録とも異なる、独特のヴィジョンが立ち上がっています。」
独特のヴィジョンは立ち上がっていない。
清野賀子写真集『至るところで 心を集めよ 立っていよ』、この中の清野賀子、彼女の仕事の水準、視の強度、方位等を測定することはさほど難しいことではない。
ただ、ふと、ダイアン・アーバスの死後、彼女の娘によって編まれたあの途方もない仕事、アパチャーから出版された『Untitled』という写真集のことを思い出していた。
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Paul Celanの栄光 (2004.8.29)
昏い 意識の痕跡が
黄金の 叩き鑿を
工作し
かれ は 言葉の大理石
あと
古の黙
その明くる日の言葉たち を
顕わにせんと
絶滅収容所の裏地にて
まばゆい小径を横切って 逝く者の影
*荒地を眼の袋のなかに 詰めよ
生け贄の叫びを 潮を、
*ぼくと息をしに来い
そして それを超えて出よ
生け贄の叫びを 潮を、
*ぼくと息をしに来い
そして それを超えて出よ
やがて 青空を呑み込んだ
セーヌ川の水面へ 還る
記された歴史
記されることを拒否した歴史
くちうつしくちうつされた
あめのしずくのもと
みずのたまりがえがく
歴史とは
しるされることなく
くちうつしくちうつされたながれるよるの
なみだにかかる
にじいろの音韻
肉眼ではみえぬ
響きのカラダをもった 言葉たちの光景
しんじつの
ゆめの くさのしとねをふるわせる
琥珀のかたまり
われる
あざやかに
やみを
くいやぶるかのように
ヒトまえに
あらわれる
*くっきりと、遠くまで、ひらいている
栄光
*引用・パウル・ツェラン『暗闇に包み込まれて』中村朝子訳(青土社)
2 件のコメント:
清野賀子さんについての記事がありましたので、コメントさせて頂きます。「至るところで心を集めよ立っていよ」とのタイトルを編集者が決めたとありますが、この本に掲載された写真数点と共に、同タイトルのエッセイを2009年4月発行の「真夜中(リトルモア)」に残されています。そのままこの写真集の巻末に掲載されておりますので、パウル・ツェランの詩集からの引用であるにしても、全く編集者の独断で決めたということでもないような気がします。清野さんはもともとは編集者であった方と聞きますので、言葉に対する鋭敏な感覚や深い造詣をもっていたはずです。ちなみに私はここに掲載されたエッセイにも惹かれました。ぜひ読んでみて下さい。失礼ながら、コメントさせて頂きました。
こんにちは、匿名さん。
基本的に、このブログにおいて「匿名さん」コメントは控えさせてもらっておりますが、文章に、清浄な人柄を感じ、すこしお返事をさせていただいます。
写真集のタイトルは、「言葉」によって表出されますが、写真集、写真にとっての「言葉」とは、僕にとっては指示言語であり、サインであり、写真の奥行きを感じてもらうための、直視してもらうための、ささやかなヒントに過ぎないと思っているのです。また、そうでなければ、写真(世界)に失礼な事だし、言葉によって飾らなければならないような写真では弱いと思っております。
編集者が付けようが、清野賀子さんが付けようが、これはあまり問題ではないですね。ツェランは「詩人」だから言葉を使う。突出した言葉を工作する。写真家はただ「世界」を撮る。言葉にできるものなら、写真など撮らぬ方が良いのですから。たぶん、清野賀子さんは、真の同胞を、共犯者を見い出せなかったのでしょう。だから極北の地から日常の舞台に接点を見出そうとした。が、極北の地で体感した、震えるような存在感覚を日常の舞台では体験することが出来なかった。それが写真に出た。至るところでは立っていられない自分を発見してしまった、これが自殺の因だったのじゃないかと。
もちろん、平凡な理由として、経済学的な的不安というものもあったんでしょうが、これは彼女の栄光のために突いてはいけない部分だと思う。
ということで、支離滅裂文章、申し訳ない。思いのまま書いてしまいまし
た。
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