振り向いた場所には、もう名前が無かった。
未知の足音ばかり
ぼくの心の内 こだまする。
繰り返してばかりいれば、やがて何も感じなくなるだろう。
旅に出て
目前にひろがる見慣れぬ風景
や言葉
匂い、を集めたとしても
たとえ日差しの濃度が変わっても
ぼくの身体は 他人の殻
この世界の空っぽ
まるで愛おしさを追い求め続けた
孤児のように
甘い歌声が耳元で跳ね返る
極上の自由が
途方も無いブルーが
やがてこの世の天空から降り注いでくる。
振り向いた場所には、もう名前が無かった。
未知の足音ばかり
ぼくの心の内 こだまする。
繰り返してばかりいれば、やがて何も感じなくなるだろう。
旅に出て
目前にひろがる見慣れぬ風景
や言葉
匂い、を集めたとしても
たとえ日差しの濃度が変わっても
ぼくの身体は 他人の殻
この世界の空っぽ
まるで愛おしさを追い求め続けた
孤児のように
甘い歌声が耳元で跳ね返る
極上の自由が
途方も無いブルーが
やがてこの世の天空から降り注いでくる。
たぶん幼少の頃に見た夢のせいだろう。
ひとつの光景が
赤いライトが点滅するフィールドで
まだ 小さかったぼくの足元に拡がる楽園を
奪い去っていった。
この瞳や心と呼ばれている“何か”
透明な窓ガラスが
やがてくすみはじめるように...
悲しんでいたのか
そこで我を失ってしまったのだろう
待ち受ける“死”を避けながら
長い間 濁った眼差しでこの世界に触れ
いくら掬い上げても 掬いきれない星空の奇跡を
この地を這うように もう一度
失ったものを取り返そうと 凍りつく
すべて白く 凍った大地の夢に
そっと近づいていった。
「地に足をつけるってね、天に足をつけることになるんだよ」
と、何かが囁いていた。
その川の名を、ひとは“小仏川 -Little Buddha River-”と呼んだ。
ふかい沢のむこうに、水の絨毯が
ヒカリと風が交ざり合う頃、ソレはぼくを手招きした。
「戻ってきてはだめだよ。もうすこし其処に」
いつも冷たく、黙りこくったカメラが
(ぼくの手のひらの熱を呼吸したんだな)
息づいて、「ソレをだれかに見せてあげればいいよ」
無常の時の流れに怯えながら
やがてぼくであることが消える瞬間の
先っちょの方で、優しくシャッターを切っていた。
海に浮かぶ船をまねて
カモメがそれに気づくように
生きてゆくための口実が
教え込まれた数多の意味が
三千音階の潮風にやられ
途方に暮れる
さすらう者たちの胸から
出て行った
逃げて往く
多くの祈りや涙の棺どもの来歴を
忘れ去り
この夜に乗る
声をまね
目的をもたない波紋の手招き
カモメがそれに気づくようにと
人は
人であることを
速やかに 終わらせた
ようやく
晴れ渡った空の向こうにひろがる
中心のない
無限の軸が明滅する闇の響きに感応し
コトバをもたない星たちの生成消滅を
その何億ものヒカリのドラマが
垂直に
誰の身体に突き刺さる
誰の身体に突き刺さる
水平に
海に浮かぶ船をまね
カモメがそれに気づくように
恒星の微笑みが
銀河の自在さが
僕のがさついた願いを奪い去る
記憶が作り上げた時のざわめきも消され
震える最後の“わたくし”の死を見届けながら
人は <海>が見える場所まで
あと数歩・・・
善という切ないコトバの連なりが
悪と重なるようにして
もだえあうこの国では
正義と不正の顔つきの区別もつかぬ
虚無と希望の幻が滲み合うこの場所で
惑星の激しい息づかいと共に
人は はじめて
この世の<自然> その心づくし
「生」そのものと化す。
Anonymous (14th century) - Istampita In Pro