2010/09/20

サシダサレタナイフ / Howie's jackknife


サシダサレタナイフ (Aug/30/01)

近所にあるヘンリーハドソン公園にて、今夜ユダヤ人のHowieが僕にジャックナイフを手渡した。
「預かっておいてくれないか」

1969年にブロンクスで生まれた彼は、二十代の終わり、なにを思ったのか単身イスラエルに行き、そこでアーミーに志願したそうな。
が、どう見ても、現在の彼は元兵士には見えない。葉っぱ好きの、女性をこよなく愛する、「俺はチベットのタントラ密教を学んだからな、あっち方は凄いんだぜ」なんて、ニヤニヤしながら嘯くあたりはパンク・ジュー、単なる生粋のブロンクス育ちだ。

夏の夜
互いのカラダの輪郭が空ろになるまで
暗闇の中を
芝生の上 ふたり暢気に横になっていれば
生まれた国のちがい 魂の色合いの差など
どうでもよくなり
使い慣れた言語の顔つき
網目だらけの言葉の絡まりなど
静かに
闇が吸い込んでくれる

そして、架空の故郷イスラエルでの生活、摩天楼の人口色でも恋しくなったのか、二、三年後にはアーミーを辞め、実の故郷であるニューヨーク・ブロンクスに戻り、以来「いつも携帯しているよ、当然だろ?」と、Howieはその隣で寛いでいた僕の腹の辺りにそっと護身用のジャックナイフを置いたのだ。

「ギャングでもないお前がなぜそんなもん持ってんだよ」
「自衛のためさ、当然だろ」
「そうかな・・・。ナイフが暴力を、血を誘うってこともあるだろ」
「タケシ、真夜中の地下鉄に乗ったことあっか?」
「あるさ」
「お、恐っかねーだろ!!」
「もちろん怖いさ・・・」

サシダサレタジャックナイフ
ナゼワタシニ?
無造作ニ 
サシダサレタ銀ノナイフ
カレノ 指紋ガビッシリ憑イタ・・・

夜露で光る僕の懐の片隅で、Howieのナイフは、今、ようやく眠りに就こうとしている。
このナイフには、彼の悪夢が、傷つくことをまったく恐れない魂たちへの憧憬が、奇妙な形で混在し、付着している。
かれのangerが
そして、あの濡れたようなマナザシの奥に仕舞い込まれたfearが・・・。


Lou Reed - the Gun(1982)
 
 
 

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